○つなぐ議会改革〜市民と議員の条例づくり交流会議2019夏
1.
概要
日時 2019年7月28日(日) 10:00〜15:30
場所 法政大学市ヶ谷キャンパス
次第 午前
基調提起 廣瀬克哉 自治体議会改革フォーラム/法政大副学長
レポート 長野 基 首都大学東京准教授
話題提供 小田理恵子 前川崎市議会議員
午後
事例報告 荻野泰男 所沢市議会議員/前議長
清水克士 大津市議会局次長
生駒市議会有志
岩崎弘宜 取手市議会事務局次長
(コーディネーター) 廣瀬克哉
2.
参加意図
平成25年、丸亀市議会でも議会基本条例が制定されました。
5年以上を経過し、これを見直そう、ブラッシュアップしようとの動きがないのは、それほどに完璧な出来上がりだったということなのか、それとも一過性のブームに乗って作ったあとは忘れられているということなのか。いや、空気を呼吸するように、意識されないほどに定着し機能しているということなのでしょうか。
その議論は別として、あの時代からの改革の旗手である廣瀬先生が今年も第19回として、市民と議会との交流を通じて議会改革を語る催しが開かれました。議員を相手の会合でなく、ここには広く、問題意識の高い各界の“市民”が参画しています。そしてタイトルも「つなぐ議会改革」。この意識を持ち続けなければと、この会合に出席しました。
3.
概要・午前
(1) 基調提起「議会改革のタマシイをつなぐ」
○議会基本条例も栗山町の初制定から13年。新人議員は当選した時すでに「改革」を“引き継ぐ”存在である。疑問も感じず、ルールに従い、議会報告会もやっている。しかし改革は道半ばであって、停滞や後退もある。
○同じ活動でも、目的に資する運用とそうでない運用がある。しかし時間を経るに従い、目的が実感しにくくなる。
○新鮮味が失われる。市民も関心が薄まる。参加者が減ると議会もやりがいが低下。改革意欲もそがれる。「制度だから」のノルマ感で取り組むことに。
○条例制定当時を経験していない議員が増えることで「なぜその改革が必要か」の実感共有がない。
○制定へ議論していた頃、反対していた議員もやってみて「これは正しい」と実感するに至っている。
○新鮮味は「薄れる」宿命だ。かわり映えせず、「やめる理由がない」からやっている。条例化したことで、やめることができない。その意味で、条例は“役立って”いる。
○議会改革が政策にどのように作用し、どんなメリットがあるのかが、住民には今もほとんど見えていない。
○改革が成果をあげているかどうか、分かりやすい判断基準が必要。改革のタマシイをどうやって承継するか。ここに課題がある。
○分権化の各論が支持されるかどうか。国の指示待ちではない、地方の議会がきちんと自己決定している姿。それが住民から信頼されているか。「私の意見が届いている」と、市民が感じているかどうか。「議会がチェックして決めているから大丈夫」と、市民から信頼されているか。議員は、市民感覚の分かる議員であると同時に「素人並」ではない、素人では分からない問題点にも気づいて議決している、意思決定の質の高い議員であれ。
○目指すべき議員像の共有。まずは議会内で目指すべき議員像を共有する。しかし「ある特定人」に絞ることは難しく、モデルは各自が判断。参考として、福島町議会では毎年、各自が年度目標を立て、1年後に自己評価して結果を公表している。このとき、低い目標を立てて軽々と達成し、高い自己評価を出している人と、高い目標を立てて低い自己評価に甘んじている人がいる。どちらが理想か? ある議員は31項目もの目標を掲げている。これ自体がすごい。力量の差がある。
○この31の目標の中に「町議会議員立候補の際にも供託金を」との項目がある。国の制度だから当然評価は最低の▲「さらに努力が必要」。この議員は選挙時に、「定員割れ」のウワサを聞きつけた市民が「滑り込み」立候補で当選することを防ぐ目的でこの目標を掲げた。まさに意識の差がある。
○自己点検・評価はなぜ必要なのか。社会が地方議会の仕事ぶりを良く評価していない。ほとんどの人が議員の「仕事」の実態を知らない。知る機会もない。実態を知らぬままに「印象論」が浸透している。そこで仕事の実態・中身をよく知る「本人」がその成果を点検・評価する必要がある。それを通じて議会そのものの大切さをも市民に理解してもらう。
○新人研修のあり方。会派と議会全体の2層で研修を行うのが理想。「タテマエはタテマエだからこそ大事」。住民自治、立憲主義とは本質的に「おとぎ話」であり、だからこそ大事、と知る。個々の議員の考え、会派の考え、その向こうに議会全体のタテマエがある。妥協もしながら、研修を重ねて、理想に近づいていくことが議会・議員の進み方だ。
(2)レポート「議会改革の成果と歩み」
○ここまでの議会改革の歩みをデータで報告する。議会基本条例の制定は
2006年の3議会からスタートして2017年、823議会へ。しかし条例の運営
で得られた実績評価を公開している議会は、2017年で13.1%に過ぎない。
○直近1年間で議会と市民との対話の場を設けた議会は2017年、53.1%と
半数を超えた。
○議会報告会を充実させる取り組みの状況として、
・グループワーク形式を取り入れている 182議会、23.0%
・ワールドカフェ形式を取り入れている 61議会、7.7%
・円卓・車座形式を取り入れている 178議会、22.5%
・議員がファシリテーターをつとめている 384議会、48.6%
(中略)
・お茶やお菓子を出している 210議会、26.6% など
○本会議での議員間自由討議の導入は、
・導入あり、実績あり 40議会、2.8%
・導入あり、実績なし 305議会、21.2%
・導入なし、実績なし 1092議会、76.0%
○委員会での議員間自由討議の導入は、
・導入あり、実績あり 382議会、26.6%
・導入あり、実績なし 242議会、16.8%
・導入なし、実績なし 813議会、56.6%
○議会モニター・サポーター制度の導入は56議会、3.8%
(詳細はレジュメ参照)
4.
概要・午後
(1)所沢市議会「議会基本条例10年目の検証」
○09年制定、同年、議会審議における論点情報の形成、議会事業評価、議会改革評価、閉会中の文書による質問、一問一答方式、自由討議、参考人招致の制度を採用。10年、議場モニター設置。11年、公聴会・意見提案手続、条例見直し手続。12年、附属機関の設置。13年、定数条例改正。14年、予算特別委員会の設置。16年、議会ICT化、条例一部改正。19年、予算常任委員会の設置。制定はしても、検証している議会は少ない。
○広報広聴関係での議会改革。10年、議会報告会スタート。11年、広報広聴委員会設置。12年、政策討論会開催。13年、SNSの運用開始。15年、議場コンサート開催。16年、議会だよりのリニューアル、みみ丸カフェの開催(無作為抽出市民とのワールドカフェ)。
〇議長選挙にあたっての所信、18年スタート。
〇議会基本条例制定10周年記念事業。議会報告会、議場コンサートにも「冠」を付けて。独自に記念ポスター展、シンポジウム、記念誌の発行(100部)。
〇議長が新任議員に議会改革の講義を行う。今回も4人の新人が当選。聞くと「基本条例を知っている?」ゼロ。「報告会に来た?」ゼロ。「傍聴に来たことがある?」2人。中には「議会だよりを読んだことがない」人も。
〇視察が来たら議員が対応する。議運の委員長または広報広聴委員長が対応し、若手も同席する。
(2) 大津市議会「議会改革のミッションロードマップ」
〇大津市議会には視察が年間140件。ロードマップは、議会の活動を「見える化」するためのツールである。
〇議会改革の方向性と優先順位。@コンプライアンス上疑義があるもの→政務活動費A情報公開度が低いもの→見せる努力をB議会機能強化に資するもの→監視は、一応やっているという印象。立案は強化が必要。
〇政務活動費制度は“性善説”に基づく制度設計だ。議長の調査権・是正措置命令権を条例化し、“議会で”政務活動費を管理する仕組みとした。
〇「請願」手続きは会議規則で定められているが、条例化した。これに併せ、先例・申し合わせ事項を新たに会議規則に明記し、「議会の見える化」を推進した。HPで見ることができる。
〇「申し合わせ」というのは行政でいう「要綱」と似ている。法的効力を持たず内部限りで決められる不透明なルールだ。これに基づき意思決定することが問題である。
〇賛否態度の公開。電子採決システムの導入。
〇一般質問の見える化。大型議場スクリーンへの資料投影。
〇ICT導入。電子採決システムで議員の個別賛否を表示。実施後、傍聴者が増加。起立採決では、これまで間違う人、中腰の人がいた。
〇専門的知見を活用した政策立案機能強化。
〇これまでの政策立案。H23「議員政治倫理条例」H24「いじめ防止条例」H25「議会BCP」H26「議会基本条例」「改正いじめ防止条例」「災害等対策基本条例」H27「議会ミッションロードマップ」「がん対策推進条例」H28「議決事件」と「専決処分」の拡大、「議会における行政評価(2年間)」
〇議員+事務局職員で「チーム議会」
〇大学とのパートナーシップ協定。@龍谷大学。いじめ条例で講師、議員研修会講師、議会報告会でファシリテーター、大学図書館との連携、インターンシップ受入A立命館大学。議員研修会講師、議会基本条例で助言、インターンシップ受入、議決事件で助言B同志社大学・大学院。議員研修会講師、BCP助言、災害等対策基本条例助言、議会放送番組でコーディネーター。
〇議会基本条例を制定するも、市民にとって「それが何になるのか」がわからない。そこでミッションロードマップ。基本条例を具現し、議会活動の市民への説明責任を果たし、市議会を「見える化」することが目的。
〇議会活動の評価サイクル。MRM計画事項の進捗を毎年度自己評価後、次年度計画事項の検証を行う。最終年度、外部評価を受ける。評価を受ける内容はロードマップ計画事項、議長公約事項、議会運営委員会抽出事項。外部評価で内側の“甘さ”を排する。これを次期議会へ申し送る。この行程で、議論する力が付き、議会力がアップ。
(3)生駒市議会「議論できる議会へ!」〜議員による新人議員研修
〇改選されると議員が若返り。最大会派に入りたがらず、若者同士で会派、また無所属の議員が増える。「もの言わざるイエスマン議員」の増加は生駒市議会の危機。行政提案を鵜呑みにして独自に調査しない、調査の仕方も知らない、周囲の空気に引きずられて採決。発言しない。これは危ない、もったいない。市政運営の根幹を語る議員がわずかになった。
〇日本流「背中を見て学べ」には限界がある。
〇議会基本条例3条に「能力を高めるために研鑽し」と、20条には「議員研修の充実強化」とある。
〇これまでの新人議員研修は、事務局にお任せ。各担当部から15〜20分ずつの仕事の説明。続いて議会事務局から報酬、政務活動費などの説明のみ。
〇議会の空気を変える。当選後最初の6月議会をムダにしない。市長のイエスマンにはならない。自分で議決に責任果たせる議員に。発言できる議員に! 議論できる議会に!! 行政にプレッシャーを与えられる議会に!!! →そこで、2期目議員を講師とする新人研修を1会派+有志議員で企画。他会派にも呼びかけた。3期目以上の議員や事務局職員も協力。役割は説明に対するツッコミやダメ出し。
〇研修内容は2期目議員が考える。2期目議員も勉強するようになった。
〇議会事務局の反応は「ルール知らない議員にそれを言いづらかったが、困ったことは聞いてくれるようになり、ありがたい」。
〇そのほかにも自由参加でこじんまりと「来たければどうぞ」的な学習会をこまめに開催している。テーマ例:県の地域医療構想、市の財政状況、地域包括ケアシステムなど。
〇一会派の提案から始まったが、「負けじ」と他の会派も研修会を持つようになった。
〇これからは「どこまでお膳立て」してあげるのか、が課題。自分で情報を取りに行く議員への独り立ち。
(4) 取手市議会「愛してっぺよ!議会!」〜改革を継続するための事務局による議員研修
〇「議会愛」。事務局職員でしっかり話し合った。研修メニューに「A定食」「B定食」「C定食」「スペシャル定食」を準備して議会に提示しよう。チョイスは議会にしてもらう。メニューも作らないなら店ではない。これでこそ“公僕”だ。それで人事異動されられるなら、それで良いではないか。
〇職員は7人。綿密にミーティング重ね、岩崎(講演者)以外6人が「岩崎さんにはなれない」で一致。
〇市議会と議会事務局との空気感の実態。議員が意識目線を職員レベルまで下げている方が多い(深謝)。議員に対しては基本的に是々非々の発言ができる。事務局提案に抵抗感を示さない…など。
〇ここからは取り組みの実例。議員24人中7人が女性であることから女性議員による意見交換会を開催。県内外21市町から45人が参加。事務局職員がファシリテーターを務めた。
〇中学生とのコラボ! 事務局職員が学校に赴き、パワポで「議会」を説明。議員や職員が「授業」。グループワークで「市の未来をよくするために」の議案を検討。これらは社会科「公民」の授業の中の「地方自治」2コマを使う。
クラス内でグループ発表。投票でクラス代表を選出。議場に場所を移す。代表以外の中学生はネットライブで「本会議」を視聴する。議長立候補者の所信表明と投票での選出。議長のもとで各クラスから議案発表。質疑。中学生から議員へ、議員から中学生へ、中学生から中学生へ、ガチの質疑。表決前に最後の対話。ボタンで表決。「根回し」なし、必ず「否決」がある。結果、可決した議案を生徒議長から市議会議長に提出する。休憩中には「議会クイズ」など。
〇高校生とのコラボ! 自殺予防をテーマにワークショップ。
〇事務局職員が講師を務め、議員研修会。2日間の「傾聴体験」。ルールは携帯電話を操作しない、出した意見を馬鹿にしない、一生懸命、聴いていただく、笑うところは思いっきり…など、ゆるくも厳しい。これを通じ、議員と職員の融和&優和&友和&宥和を図る。「おじぞうさん」をやる。「あるある」を交えて退屈しのぐ。職員のレベルを上げる。後半はグループワークで@会議規則事例研究A議決型議会と政策提案型議会のどちらが現実として理想か、について討議。新人議員による模擬一般質問。2期目以上が「議長役」「市長など執行部役」傍聴席にて「評価役」をくじ引きで引き受ける。
〇全員協議会として研修フォーラムを開催。@「新規採用職員と“取手市の未来”を語る」A「新規採用職員と“防災シミュレーションゲームを用いて市の防災計画”を確認」B「カードバトルSUMOUノコッタ!残った?(案を絞り込む手法)を用いて“若者の投票率向上を目指して”を対話。パズルゲーム「ウボンゴ」でとことんアイスブレイク。対話に移るとバンバン意見が出る。
5.
感想
まったくの私事で恐縮ですが、汗を拭きながら法政大学外濠校舎にたどりつき、私は大学受験の時代のことを思い出しました。高校3年、夏休みの終わりに、一人で上京。いくつかの大学を「視察?」して回りました。まだ学生運動の終焉手前。法政大学の校舎の窓が大胆に割られていたのに高校生の私は衝撃を受けました。今も鮮明に覚えています。受験の春まで、自分がどこまで「偏差値」を上げられるかはわからない。いわゆる「志望候補の一つ」としてここを訪れましたが、受験することはありませんでした。
50年近くが経ち、むろんキャンパスの姿も近辺も様相一変。しゃれた校舎の中に入ると夏休みでもあり、学生の姿はまばらで、がらんと広い佇まいをエレベーターで6階まで上がると、巨大でシックなつくりのホールが会場でした。
10時に始まり、昼食休憩をはさんで15時半まで、みっちり。紹介したとおり、日本の地方議会の改革最前線でいったい何が行われているのか。これが同じ国の事実であるのかと思いたくなる、最先端の取組み。確かにユニークな事務局職員のキャラクターなどがなくてはできない内容もありましたが、それも含めて、これが現実である。丸亀に帰って、何から手を付ければいいのか、当惑するような事例発表の数々、そして理を尽くした講師陣の話でありました。
ソフトタッチの廣瀬先生のお話の中で、私はこのレポートを書くためにレジュメを再読していて発見したことがあります。たぶん、お話にこの言葉は出てこなかったのではないかと思います。「住民自治、立憲主義なども本質的に“おとぎ話”であり、だからこそ大事」との一節です。専門的知見、と言いますが、まさにこうした研究の最先端の知見こそ、いま丸亀市議会に必要なのではないか。住民自治、立憲主義を“おとぎ話”と言い切り、そして「だからこそ大事」と展開するこの頭脳が、深まりが、遠望が、議会を高めてくれるのだと、ここに描き加えておきたいと思います。
レポートでは、10年を経た現在の、改革の座標が数値で明らかに。わが丸亀市議会がどの辺りにいるのかがわかってきます。議会報告会で議員がファシリテーターを務めている、の項目該当が実施議会の48.6%。私たちの議会報告会のあの姿が「ファシリテーターを務めている」と胸を張っていいのかはまた別のことですが、これでよし、としない不撓不屈の改革推進へ、このセミナーでますます背中を押される。全国で議会モニター・サポーター制度を導入している議会は56、全体の3.8%だそうです。私はどうしてもここに食い込みたい。するとクサビのように働いて、外部から、市民からの声が「開かれた議会」の扉をこじ開けてくれるだろうと思うのです。でもどこから着手? 誰を誘う? となると尻ごみの弱さが頭をもたげます。視察の成果を皆が共有、そのためにも視察報告や資料を議会図書室に整備し、せっかくのタブレット導入を利器として、「〇〇に視察してきました」の声掛けを全員が全員に行う。そのようなシステムを、まずは目指そうとしているのですが。
セミナー後半で陸続と登壇した方々の発表は「ものすごい」の一言。「議会基本条例を制定したとて、それが市民にとって何になるのかが分かってくれていない」。この厳しい現実を避けて、実りある議論や手立ては望めない。小手先の(小手先とて十分に壮挙とも言えますが)マイナーチェンジに甘んじない、まさしく「市民と議会との」共同作業としての議会改革を“つなぐ”。壮大な展望と眼下の目もくらむような改革事例を、たっぷり教わった一日でした。
あの夏、18歳の若者はもう65歳を迎えようとしています。
「東京へ行こう」。高い志は、今もあるのか。何のための65年間だったのか。
学舎を後にし、容赦ない日差しの中で振り返り、法政大学の校舎を仰ぎ見ます。殿堂があるのだ。そこに知恵と情熱が結集されている。迷うことはあるが、立ち止まってはならない。与えられた責任を果たす。責任を自覚している人でなければ、それはなし得ない。私もその一人として、丸亀市議会に連なる決意です。